◆民法第632条(請負)
民法第632条は、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを的することによって、その効力を生ずる。」としています。
問題点のキーワードは、偽装請負です。
例えば「建築請負」があります。工務店や建設会社が注文を受けて家屋などを完成させて注文者に納入し、その代金を受け取るという契約です。要するに請負は、「仕事を完成させる」契約であり、請負事業者が「自らの裁量」の下に、自ら「雇用労働者を指揮命令」し、責任(自らの報酬請求に係るリスク等を含む法令遵守義務)を持って、注文者から請け負った仕事を完成させるものです。したがって、自らの「裁量と責任」、「雇用労働者の指揮命令」、「自己の計算に基づく請求」が、要件です。結果的に違法の場合、多くは「人材派遣」に該当すると言われています。
なお参考として、この民法の請負条文に関しては、次のような判例があります。
≪下請負≫
請負人と注文者の間に下請負禁止の契約があっても、請負人と第三者間に成立した下請負契約の効力には、何らの影響も及ぼさない。(大判明45・3・16民録18-255)
元請企業は下請企業の労働者に対しても、その労働者が事実上元請企業の指揮監督を受けているときは、信義則上、安全配慮義務がある。(最判平3・4・11判時1391-3)
≪危険負担≫
請負工事の履行不能が注文著の責めに帰すべき事由に原因したときは、請負人は債務を免れたことによって得た利益を注文書に窟遷することを要するが、報酬を受ける権利は失わない。(大判大1・12・20)
≪所有権の帰属≫
請負人が自分の材料で注文者の土地上に建物を築造したときは、当事者間に別段の意思表示がない限り建物の所有権は引渡しの時に注文者に移転する(大判大3.12.26)。
注文者が建築の主要材料である木材一切を供給したときは、その建物の所有権は、竣工と同時に、注文者に帰属する(大判昭7・5・9)。
棟上げ時までに全工事代金の半額以上が支払われ、その後も工事の進行におうじて代金が支払われてきたという事実関係の下においては、特段の事情がない限り、建築された建物の所有権は、引き渡しを待つまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属する(最高裁判例昭和44.9.12)。
建物建築の請負契約において、注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権が、明示または琴示の合意により、引渡しおよび請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有(報酬の支払時期)を取得するものと認めることは、何ら妨げられるものではあにと解される(最高裁判例昭和46.3.5)
◆ 偽装請負
「請負」ではないのに、上記の商行為たる請負と偽装してする労働法違反のことを云います。多くの場合、就業の実態は「人材派遣」(自分が雇用する労働者を他人の指揮命令下で就労させる)、又は「給与」であって、「請負」の実態を備えていないのに、契約の上では「請負」であると偽装して、諸法令を免がれようとするものです。
例えば、発注者が犯す労働法違反で、工場構内で、自ら雇用する労働者を発注者から、請け負った仕事として、作業に従事しているが、その仕事は発注者の従業員が日常的に指揮命令している状況にあるときが挙げられます。
請負は、いわゆる一人親方のように個人が単独で請け負うこともありえますが、生産量が多い物を製造する業務を請け負った場合などには、請負事業者が労働者を雇用し、請け負った業務にその雇用した労働者を自ら指揮命令して従事させることとなります。なお、請負の場合には、公の秩序又は善良の風俗違反(民法90)等でない限り、請負業は合法です(労働者派遣の場合は特別法により制約があります)。
なお、労働者派遣とは「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」をいいます(在籍型出向や、労働者供給事業に当たらないように留意が必要です)。
◆ まとめ
1 偽装請負とは、
就業の実態が、例えば「人材派遣」であり、「業務請負」の実態を備えてい
ないのに、契約の上では「業務請負」と偽装することを云います。
労働時間管理上の独立性、人事管理上の独立性、経理上の独立性、法律上の
独立性、業務管理上の独立性が、保てない請負は、偽装請負と云うことになり
ます。なお、建設業に関して、元方事業者には、安衛法によって、下請事業者が
安衛法に違反しないよう指導し是正を指示する義務が課されています。
2 派遣業とは、
グローバル化した国際競争・企業間競争に対抗するための有効なコストダウン
策として、改正派遣法の施行によって製造業靖への人材派遣が解禁された時期
(平成16年3月)に前後して、本来の労働者派遣事業、請負と比較してそん色
ないとの世間的な評価から、急速に広まった経緯があります。
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