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        就業規則・労働協約に基づく不利益変更

T 労働条件変更紛争の法理

 労働条件変更に関する訴訟の問題点は、概ね次のとおりです。
 イ)集団紛争の場合は、就業規則または労働協約の変更
 ロ)個別紛争の場合は、変更同意の有無または変更解約告知
 これらの問題の勝訴のためには、「証拠確保」と裁判所の基本的な判断基準の理解が重要です。

 なお、第四銀行事件判決、みちのく銀行事件判決の「就業規則の不利益変更の合理性判断要素」として7項目を挙げていますので、本ホームページでは、左欄○印をつけた項目(7つ)について説明しますが、労働契約法第10条では、その7項目を、次の5項目に整理しています。
   @労働者の受ける不利益の程度、
   A労働条件の変更の必要性、
   B変更後の就業規則の内容の相当性、
   C労働組合等との交渉の状況、
   Dその他の就業規則の変更に係る事情 


U 就業規則の変更
 
合理的変更の法理として使用者が、就業規則の変更により労働条件を変更しようとする場合、判例は、労働者の同意がなくても、合理性があれば労働者に対する拘束力が生じるという立場を採用している。当該法理の構成要素は次の3点です。
a)就業規則の性格
 秋北バス事件・最高裁判決を引用します。「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」。

(b)高度の必要性・合理性
 大曲市農協事件・最高裁判決を引用します。「当該就業規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成、又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。
 
 特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」。

(C)合理性判断を行う際の具体的な判断要素
 第四銀行事件・最高裁判決を引用します。「合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」。

 現在では、就業規則の変更をめぐる事件では、集大成として、上記C項で列挙された判断要素に着目して合理性の有無を判断すべきことになる。ただ、最高裁は「総合考慮により判断すべき」と述べるにとどまっており、どの判断要素が重視されるべきかまでは明らかにしていない。判例も、当初の多数派労働組合の同意重視から、その後は、個々の個人の不利益にも光を当て、一部の労働者にのみに及ぶ大きな不利益には、経過措置など当該不利益に対する十分な軽減措置がなければ、少なくとも、その労働者との関係では合理性が認められないとする立場をも示しています。
 
V 労働協約の不利益変更
 1.規範的効力
 労働協約による労働条件の不利益変更とは、労働協約上の労働条件を労働協約の改訂により不利益に変更することことを云います。労働者側の組合員との関係では、労働協約の規範的効力の問題です(労働組合法第16条)。協約を締結した組合の組合員は、労働協約の規範的効力により、その規定内容に拘束されるのが原則です。労働条件を不利益に変更する労働協約であっても、同様に規範的効力が及ぶか否かが論点となります。

 最近の朝日火災海上保険事件(最高裁平成9年3月27日判決)では、協約が締結されるに至った経緯、会社の経営状態、同協約の全体的な合理性に照らし、不利益変更は認めるが、特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結された労働組合の目的を逸脱しておらず、規範的効力を否定すべき理由はないと判示しています。つまり労働協約が組合員に対し与える不利益の程度とも関連して、当該協約の締結が労働組合の目的を逸脱しているか否かの協約の規範的効力の有無に関する重要な判断要素になります。個々の組合員の意思に関して、会社側として、どの程度採り入れる必要があるかは、組合員の不利益の程度と関連して決まるという考え方が示きれています。

 2.一般的拘束力(労働協約の拡張適用)
 労働協約の拡張適用として労働組合法第17条は「同種の労働者の4分の3以上が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする」旨の規定がある。拡張適用には、このような強制的性格があることから、労働条件の不利益変更となる場合にも認められるか否かは議論がある。法文上は未組織労働者か少数派労働組合の組合員かで区別をしていないが、少数派労働組合の組合員については、その少数派労働組合自体に憲法第28条上の保障があるので、個別に考えられています。

 3.未組織労働者への拡張適用
 最高裁判決では、未組織労働者への拡張適用について、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当であるとされます。
 
 即ち判決は、拡張適用が規範的効力の拡張であるという理解を前提に、拡張適用による不利益変更については、文言上規をとらえて有利・不利をいうことが適切ではないこと、労組法17条の趣旨は労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と公正妥当な労働条件の実現を図ることにあること、という理由で拡張適用による不利益変更も可能であると述べています。

 しかしながら、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情がある場合には拡張適用が否定されると述べ、労働協約によって非組合員が、もっぱら大きな不利益を受ける著しい不合理があれば拡張適用は認められません。つまり労働協約の特定の未組織労働者への適用が著しく不合理な「特段の事情」の有無が審査されます。なお少数派労働組合の組合員への労働協約の不利益変更の拡張適用は、概ね否定されます(大輝交通事件(東京地裁平成7年10月4日判決)等参照)。

W 個別労働条件の合意による変更
 1.原則
 個別労働条件の変更については、契約法の原則がそのまま妥当することになる。したがって、労働条件の変更は、労働者の同意があってはじめて有効に行うことができる。なお例えば、賃金の不利益変更は「労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であることはいうまでもなく、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないとされます(チェーマン事件(東京地裁平成6年9月14日判決)。

 労働契約上の基本的な労働条件は、通常は指揮命令による決定・変更にゆだねられておらず、労働者の同意があってはじめて変更がなされます。賃金や労働時間は、変更に労働者の同意を要する基本的労働条件です。また職務内容や勤務場所の変更も、配転命令の問題であっても会社側の権利濫用は不可で、本来は労働契約上の同意があってはじめて有効です(東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)参照)。

 2.労働者の同意
 なお、労働条件の不利益変更の際の労働者の同意の有無は慎重を要します。例えば労働者の使用者に対する債務と賃金債権との合意相殺が労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」に違反するか否かの判断基準に関する判例(日新製鋼事件(最高裁平成2年11月26日判決)を、賃引下げに援用して「貸下げについても、労働者がその自由な意思に基づきこれに同意し、且つ同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するものと解するのが相当であるとされます(アーク証券事件(東京地裁平成12年1月31日判決)参照)。
 
 この判例では、賃金全額払の原則は、既存の賃金規定に基づいてすでに発生している賃金請求権について使用者は全額支払わなければならない(労働基準法第24条)として、賃金の不利益変更に対する労働者の同意認定を厳格に捉えられています。

 3.変更解約告知
 会社が深刻な経営危機に陥った場合、労働者の同意がなくても労働条件を引き下げることができるよう労働条件変更を強行する手段が、労働条件の変更を拒否したことを理由とする解雇(変更解約告知)です。変更解約告知は、条件付き解雇という解雇の一種で、目的は解雇の脅威を背景に、労働条件の変更を強行しようとするものです。同時に労働条件変更手段としての性格も有ります。

 法的には労働条件変更手段して、労働者が変更に同意した場合に、その同意が有効か否か(強迫による取消可能の可能性)が問題となります。また変更解約告知の解雇は、変更拒否をした労働者の解雇は現行法上、有効か否か(解雇権濫用の可能性)、ないし労働基準法第18条の2違反の疑義、「留保付き承諾」(裁判所が相当と判断することを条件として不利益変更に同意する承諾)はは認められるかが問題となります。

 判例としは「労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避する努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である」があります(スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7年4月13日判決)。貸金など不利益変更の事案について、結論として解雇の有効性が肯定されましたが、設定された有効要件はかなり厳格で一般にはこの要件をみたすのは容易ではありません。

 強制的な性格のため、裁判所は、変更解約告知の有効性を認めることに必ずしも肯定的ではなく、学説上も積極的な肯定論者は少数です。留保付き承諾については、最近の裁判例では申込拒否と明言しています(日本ヒルトンホテル事件(東京高裁平成14年11月26日判決)参照)。事実上、この「変更解約告知」による解雇は、会社側にとって難問です(解雇は簡単には出来ないと云う認識が会社側に必要です)。

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